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咲鬼庵(しょうきあん)−鬼は笑う−

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鬼は「おに」か「しこ」か

日本の文献で初めて「鬼」の字が使われたのは、馬場あき子氏の研究によれば、『出雲国風土記』の大原郡阿用郷の名称起源ということです。ただし、「鬼」の字が「おに」と読まれたかは不明です。以下その文を引用します。


「昔、或人(あるひと)、此処(ここ)に山田を佃(つく)りて守(も)りき。その時、目一つの鬼来たりて、佃(たつく)る人の男を食ひき」 (1)


同じく馬場あき子氏によれば、万葉時代、鬼は「しこ」と読まれました。「しかめっつら」「醜女(しこめ)」などの「しこ」と同じと思われます。


万葉集巻二117番、舎人親王の歌に鬼と書いてしこと読ませる歌があります。


大夫(ますらお)や片恋せむと嘆けども鬼(しこ)の益(ます)らをなほ恋ひにけり


(意味:立派な男子たるものが片恋などしようかと思い、わが身を嘆くのだが、やはりふがいない男子は恋に苦しんでしまうものでしょうね)(2)


この口語訳では「鬼=しこ」を「ふがいない」と解釈されています。


「大国主」とも「大己貴(おおなむち)」とも尊貴を賛えられた神の別称が、「葦原醜男(あしはらのしこお)」であることから、容姿端麗と醜いこと、貴と鬼は表裏一体で、「しこ」には特別な力が込められているように思われます。


注記

(1)『風土記』日本古典文学大系、岩波書店、1958年、p. 239

(2) 中西進『万葉集(一)』講談社文庫、1978年、p. 110


参考文献

馬場あき子『鬼の研究』三一書房、1971


by showkian | 2019-03-31 14:53 | | Trackback | Comments(0)